私は運がいいことに、今まで友達付き合いをしてきた人達はみんな道徳的で性格が良い人達だった。
「人が嫌がることはしない」が当たり前で、相手を尊重してくれるようなものの言い方をする。
自分にとってはそれが普通だと思っていた。友達に対しても、恋人に対しても。
そう、思っていたんだ…。
友人の彼氏の話。
彼は一見とても穏やかそうで、私の前では「○○(彼女)がいつもお世話になってます」とにこやかに挨拶してくるのだ。
優しそうな彼氏だなと、言葉だけ聞くと勘違いしそうになる。
でも、表情を見て私は混乱してしまった。
この人、笑ってない。
顔の下半分は笑っているけど、目が笑ってないんだよ。
目が漆黒っていうのかな、黒目の全部が瞳孔のような感じ。
そう気づくと同時に、その場から逃げ出したくなるような鳥肌が立った。
じっと一点を見つめるような異様な視線に私は耐えられなくなった。
私の顔はたぶん引きつっていた。
「あれ、気づいちゃった?」とでも言いたげな目つき。
じっと私の目を見て離さない。
私は耐えきれずに「夕飯の支度があるから、帰るね」と言ってすぐにその場を後にした。
彼は彼女と話すときは無表情だった。
実は私は前もって彼女から、彼について聞いていた。
というのも、私と話している間に彼からのメールがひっきりなしに彼女に来ていたからだった。
未読メールが20件。
ほとんどが彼女を罵倒するメッセージ。
返信が遅いという理由かららしい。
「なぜ返信しない。」
「返す時間くらいあるだろ。」
「もう勝手にしろ。」
「俺より○○(私)を選ぶのか」
「消えろ」
そんなメッセージが5分ごとに彼女のケータイに飛び込んでくる。
普通なら耐えきれずに別れるだろうに、彼女は彼に精神的に依存しているので「絶対に別れない」と言う。
「消えろ」
そんな酷いメールを送る人と自然に会話することなんて、私にはできない。
それを知っていたから、尚更怖かった。
偽りの笑顔で周囲を固めておいて、彼女の逃げ場をなくす。
それが彼の手口なんだとか。
彼女はそれに気付いていながら、逃げ出すことを拒む。
世の中には関わってはいけない人というのが、確実にいる。
本能的に危険だと思ったら、それは案外当たっているのかもね。
ちなみに、その夜にわたしは謎の腹痛に襲われた。
腹痛に耐えながら「なぜあんなに酷い言い方が出来るのだろう」と考えて夜を明かすことになったのでした。

![]() 良心をもたない人たち [ マーサ・スタウト ] |
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